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透明芸人

全国を飛び回るドサ廻り芸人の日々のことと周りのこと。他には音楽/服/漫画/お笑い/カルチャー全般/ビスケッティ

親切心が相手に届くとは限らない

ドサ廻り芸人は移動が多い。ここ1〜2年で急激に新幹線や飛行機に乗る事が増えた。ありがたいことだ。

平均して約2時間、座席で目的地までジッと待つのがほとんどの過ごし方。

周りを見渡せば食事をする人、PCを開いてカタカタとお仕事をする人、気の合う友人とお喋りしながら過ごす人と様々だ。

だけれども僕はジッとしている。目を閉じてジッとしている。

周りから見たら寝ている人のように見えるだろうけれど、そうではない。

ジッとしているだけ。

寝てはいない。たまには眠りに落ちることもあるけれど、基本的には意識はある。周りの音もハッキリと聞こえる。

 

昨日大阪へ移動する際のこと。

会社から貰ったチケットを握りしめ、指定された窓側の席に座る。そこに僕の意思はない。

すると隣に小さい子供が座った。途端に

「ねぇ〜景色見えな〜いなんで〜おか〜さ〜ん」

ときたもんだ。さぁこれは気まづい。席は決められているし先にも言ったが、僕の意思ではない。

ここから大阪までの約2時間。きっとこの子供は外の景色を見るのを楽しみにしていたのだろう。ただでさえ新幹線に乗るというイベントなのだ。ワクワクドキドキしていたに違いない。

その楽しみをこんな僕が潰すのはいかがなものか。そういう考えが小さいツルツルの脳ミソを駆け巡っていた。

ここで閃いた。自分の席と交換してあげればいいではないかと。

僕の移動スタイルは目を閉じてジッとしているということだ。景色を見るわけでも仕事をするわけでも、誰かとお話しするわけでもない。

勇気を振り絞り声をかけた。

「お席代わりましょうか

自分でもびっくりする程声がか細い。しかも痰が絡み何を言っているかわからないほどの発声だった。

咳払いをしもう一度声をかけた。するとお母様が

「いいんです!いいんです!こら!わがまま言わないの!すみませ〜ん」と。

絶望とはこのことを言うのだろう。他所様の教育に口を出す程僕はシケた野郎ではない。でもただの親切心で言っただけなのに。

そこからはまた僕は目を閉じこの世界から逃げ出した。時折遠くの方から

「ねぇ〜景色見えな〜いなんで〜おか〜さ〜ん」

とアラームのスヌーズ機能のように聞こえてくる。

起きてるよ。でもなんだか眠いみたいだ。

 

そんな僕を乗せた新幹線は順調に大阪に向かっていった。